線路沿いと残暑と風鈴と

storys

「おはよう、暑いね」

その声で、汗をかいて寝ていたことに気づく

「うん、おはよう」

「朝ごはん買いにコンビニいく?」

「うん、行く」


リィーーーン

布団から見上げる窓枠には、
青空と入道雲と風鈴が入り込んでいる

風が、南部鉄の風鈴の存在を感じさせた

こんな見た目から、こんなにキレイな音が出るなんて思ってもみなかった

最初は、錆びてるんだと思った。

その音が、夏を届けてくれていた。

とは言っても、年がら年中吊るされているから
いつでも夏らしさを感じさせてくれるんだけど。

リィーーーン

リリィーーーン

涼しげ。

その言葉が見事に当てはまる。
今が暑いという事実を、突きつけてくる。

キレイな音だった。

周りの音が聴こえなくなるくらい。

俺には、夏が暑すぎた。


寝ぐせのついた伸びた髪を気にしつつ、
スウェットの半ズボンで外に出る

彼女も同じように、
アホ毛が出てるのを気にしつつ、
ジャージの半ズボンで外に出た

ボサボサ頭で、
昼前まで寝ていただらしない大学生カップルはコンビニに向かった

線路沿いのアパート。

ボロいけど、駅からも近いし、大学からもコンビニからも近い。

ここに住んで、もう3年になる。

ミィーーーンミンミンミーーー

今年の夏は、暑い。

毎年言っている気もしなくはないけど、
今年の夏は、本当に暑い。

「なに買う?」

「アイスー」

「朝ごはんじゃねぇじゃん」

「大人になったら、お腹すいたら食べればいいんだって、YouTubeでやってたよ」

「へぇーそうなの?」

「栄養が必要なのは、成長期の時だからだってー」

「へぇ、じゃあ俺もアイス」

「あれ、なに買ったの?」

「私は成長をやめない女だから、やっぱビビンバ。」

「おい、俺スイカバーしか買ってねぇぞ、成長止まるぞ」

「成長?する気あるの?」

「成長することが人生の命題ですけど?」

「えー、じゃあビビンバのもやしあげるよ。これを食べて大きくなりたまえよ」

「なれるか」

「じゃあ、もやしの豆もあげるよ」

「ビビンバ半分よこせー!」

「きゃーーー!」

重さすら感じる日差しの中、
線路わきの道をふたりで走った

楽しかった

暑すぎる夏が、好きだった


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