渋谷3号線の時間軸

storys

「なんでこんなとこ選んだの?空気も悪いし、うるさいし。外に洗濯物も干せないじゃん」

上京してから、
初めて家に呼んだ友達に

そんなことを言われた

「別にいいじゃん、あんたには関係ないでしょ」

社会人になって2年目、
ワンルームのアパートを出て、
マンションを借りた。

首都高速渋谷線の真横。
そこが私の決めた部屋だった。

部屋の窓から
適当に石を投げても当たるほどの距離を
車が通過していく。

「でも、昔からそういう変わったところ、あったよね」

そう言いながら、
窓横に置いてあるランプに触れた。
ポッと明かりがつく。

「別にそんなことないし」

「あるよ。前に付き合ってた人も、なんか変わった人だったじゃん」

「あれはあれで、いいところがあったの。いない人のことを言うのは、良くない」

「ごめんごめん。でも、今回引っ越したのも、そういうこと?」

昔からわかりやすいと、
よく言われる。

言葉に、弱い。

似合うだろうと言われれば、
伸ばしてた髪をバッサリ切る。
服をほめられるとそれが勝負服になるし、
人がタバコを吸っていたから、
私もはじめた。

呪い。

そう言っても過言じゃないくらい、行動を決められてしまう。

「恋愛とかじゃないよ、引っ越したかっただけ」

リビングからベランダに出られる窓を開ける。

排気ガスを混ぜた風と
体が揺れそうな大きな音が上半身を包んだ。

タバコに火をつける。

田舎出身の私は、
都会が好きではなかった。

けど

彼の言葉で呪いがかかってしまった。

『高いビルの上ってテンポよく赤いランプが光るじゃん?学生時代からあれ見るのが好きでさ。
そこから、都会が好きになったんだよね』

私は、都会が好きではなかった。

ここは
空気も悪いし、うるさい。外に洗濯物も干せない。

でも、彼の感覚に少しでも近づきたくて、
今、首都高の横に住んでいる。

変わらず流れ続けるテールランプを見て

昔からなにも変わっていない自分と同じような気がした。

自分の意思ではなく、
風に吹かれて漂うタバコの煙が

目に沁みた。

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